TOP > 展覧会情報 > 第59回日本現代工芸展 授賞作品・授賞理由
現実世界や仮想する宇宙空間の森羅万象を、様々な技法を駆使し表現した意欲作である。背景は実景に取材したものか湖面に映り込む木々が描かれ、金箔の帯が差し込む光を思わせる。一方、この作品の見所である渦を巻く前景は、巧みに加飾された金属の板を大胆に配し、画面にダイナミックな動勢と奥行きをもたらしている。
漆黒の闇の中にフクロウとヴィーナス(金星)、ラフランスが浮かび上がる。「スペース・アイ」は梟の目の中に宇宙の神秘を見た。鳥・天球は宇宙の神秘を、果物は現実世界の表象だ。幻想と現実を綯い交ぜた角康二の漆芸ワールドが、卓抜のデッサン力と高度の沈金技術によって生み出されている。構想力と素材の理解、技術力が華開いた作品である。
大胆な形態でありながらも、口縁、あるいは胴から側面への力強く繊細に曲線が刻まれている。その両者の微妙なバランスによって、柔らかさと力強さが内包されている。
春の訪れと共に、無事に燕が戻り、やがて家族を増やし去ってゆく。その自然の道理を眺めた作者の心情が、見事に鳥の姿となって表現されている。
神秘的な鍾乳洞から砂浜に水の雫が落ちていく構成で、深い濃淡の色からは、時の仄暗くも美しい儚さを感じられる染色作品である。糊の吹雪技法と金銀箔を繊細に蒔く技法、暈し技法が特徴。
幻想的で心を打たれる作品。
作者は阿蘇をテーマとした作品を永年に渡り発表しているが、今回の作品はそのひとつの集大成と言っても良いであろう。阿蘇の魅力である、その力強さと生命力を充分に表現した作品といえる。
熱帯地の花か野辺の花、奇を衒う事なき美しさを、染織美術の平面的奥深さをもって表現した魅力と、力強さを染め上げている。個々彼処に施された譃割れの味わいがより一層安らぎと深さを効果的に、染独自の美しさをかもし出している秀作である。
織り目のある絹を地とし、表現によって蝋の種類を使い分けている。
木蝋での筆致が生かされ、幾層にも重ねたぼかし染めで宙を表わした。
この混沌とした時代に生きるなか、想いは宙へと翔ける。希望を失わないようにと願いながら。
花々の集合日を素直な美しさで構成した秀作である。
織の立体感と花の色香がうまく調和している。全体にバランス良く織り上げている。
糸各々の織りなす色香は心を楽しくさせる魅力がある作品である。多彩な色面構成が織り糸をより躍動的に表現している。
漆の面に刀で彫りを入れた中に金箔を入れて画面を構成した沈金による作品である。鳥の目の鋭さと羽根の柔らかさの表現が実に見事である。背景は豊かな色彩による宇宙を感じさせる表情とする。大空を飛ぶ鳥が迫力ある構成となり、鳥の目の向く方に何か豊かな未来を感じさせる優作である。
明日に向かう兆しの形態。朱泥釉で上部に明るさを求め、下部の黒ゆず釉の焼切れや光沢に配慮して焼成。ここ数年来、幾つかの組立に依る仕事に苦労して来ましたが、窯の環境を整えながらも、パーツ組み立ての妙を力強く「希望の形」に纏め上げた秀作である。
Aile (翼)。作者は翼にどんな思いを込めたのだろうか。未来への希望か大空への憧れか。白磁による幾何形体と僅かに緑がかった透明板を自在に構成し、自己の造形世界を穢れない白と深い黒の内に表現している。
「彼は誰時、誰そ彼時」のタイトルが意味深で鑑賞者のイメージをふくらませる。
絞染めの技法の特徴、特に布の形状記憶を効果的に用い独自性のある構成・表現にまとめている。次世代に向けて展開していく可能性を感じる秀作である。
シンプルな形と、色彩で構成された作品ですが、素材の持つ力を充分に把握し、綿密な計算の元、構成されています。一見すると、悠久の時の一瞬をガラスによって閉じ込めた、鉱物の結晶のようにも見えます。
ガラス素材を知り、技法の特徴をうまく操り、自らの表現を見事に具現化した秀作です。
水面をイメージさせる横板には柔らかな木を使い水の柔らかさを感じさせます。しかしその形状は鋭く、湖の水面が氷り動きが止まる。その氷が大音響と共に盛り上がり突き上げてくる様子、動きを硬い欅で制作しており、自然界の力強さを木の素材をいかしてよく表現しています。
いろいろの椿の花と葉の中にオレンジのラインで構成され、春を迎える希望と祈りを色漆で表現された秀作です。
特にこの作品は調漆と云う技法が駆使され、色漆を塗り重ね、その後求める色を掘り出し、研ぎ出すと云う大変な作業です。
鑑賞の際は表面の凹凸を感じて観る事をお勧め致します。
作者は、自然界の草木の種が芽ぶき成長する生命の輝に畏敬の念をいだくとともに、そのたくましさや、しなやかさに思いをはせ、その先を祈るとともに、人の生き様に思いを重ねて制作をしている。端正で洗練されたフォルムが美しい作品である。
この作品は、暗闇に一瞬白く輝く光を表現している。黒と白色でさまざまな柄・素材を組み合わせて構成し、作られている。黒の量をおさえ、白が目立つようグレーも多数使用されている。ダイヤモンドの光を連想する美しさがある。
風をイメージしたシリーズ作品。長く厳しい冬が終わり、雪解けの里山に吹く優しい風を表現。フォルムと色調、風を感じさせるライン・作者の思いを込めた完成度の高い作品である。
作者はここ何年か、果実をモチーフに制作している。今回も大胆に乾漆技法で洋梨をアレンジし、それを3つに切断して宇宙空間を作っている。漆の持つ光沢と技術力、芯には金箔、内側には貝を張り生命力あふれる作品である。
蘇鉄の葉の葉脈を素材として、作者が幼いころより親しんできた相模湾の波濤をイメージした作品です。
深みのある自然な色合いと珍しい植物を自在に構成し、シンプルな波の躍動感を表現している秀作です。
長い冬から待望の春を感じる頃、作者は日中、雪融け水が滴れながらも、朝晩には寒気に晒され再氷結した、“つらら”の自由な造形に感動し、制作しています。まるで仲良く寄り添い助け合う家族のようです。心温まるほのぼのとした手吹きガラスの秀作です。
暗い海の中、一匹の孤独なシーラーカンスの行く手をさえぎるクラゲが、ふわふわとにぎやかにさまよっている様子を描いている。このテ-マをパステルカラーで、染色の特徴の透明感ある色調、ゴム糊糸目とロウのすぐれた技術によって効果的に描かれている秀作である。ポップアートをうかがわせる染色の新境地を開く作品である。
ガラスという非常に扱いにくい素材で、昆虫という複雑な形態を表現する事は、大きなリスクと困難さを背負う事となりますが、敢えて、そのことに挑戦し見事に作品へと昇華させました。ガラスと昆虫への深い愛情と執着を感じさせ、若々しく素直な作品です。
本格的な本友禅染の技法を用いて、中国神話をテーマに、独自性を有した物語に再構成し表現している。
ダイナミックなスケールのある空間に個々の細やかなモチーフもちりばめられていて、屏風仕立ての効果も加わって見るものを飽きさせない。
高度な糸目糊の技術と豊な巧みな配色も見事な秀作である。