TOP > 展覧会情報 > 第61回 日本現代工芸展 授賞作品・授賞理由
干田 浩【金属】
春の日暮れは秋とは違い、日が暮れてもしばらくの間どこか艶めかしく何となく心を誘われる気分があります。その月明りの夜空を切り取って日暮から夜へ移ろう一刻の雰囲気を金属(鋳金)特有の素材の持つ力と表現技法を駆使して制作、表現されている完成度の高い秀作です。
横山 喜八郎【染織】
晩秋の東北蔦沼を取材して刻々と変る秋色風景を染の持つ秀明感と色彩の美を沼とブナ林の調和を抽象表現で染め上げている。作者は沈水樹の時の経過と自然界の風と刻々変化する美しさは人の心の変移にも加味された想いを限りなく求めた秋景の美しさ、四季の変り目に心を奪われている。秋から冬に春待つ四季の美は、人の心に希望を与えてくれる作品として昇華している。
青木 宏憧【漆】
下部にはカブトムシの角と足をイメージする構造物があり、その上に漆黒の円盤が立ち上がる。円盤はゆったりとした膨らみを持ち、磨かれて鏡面となる。目の前にあるもの全てを中へと映しこみ、奥行きある世界観を表出する。その漆の面自身が光を放つ造形は存在感があり、嵌め込まれた貝の輝きなど完璧な技術力で、完成度の高い作品である。
武腰 冬樹【陶磁】
以前より陶芸と建築との融合をテーマに作陶を続けている。今回は建築の外側から見える街角をとらえ表現した。作者は宵の街の青が好きで近年はテーマにしている。高火度釉薬のコバルトを使った濃い青色と低火度釉薬の黒釉の黒色の対比が爽やかです。
近藤 賢【陶磁】
大気の動きや水の流れなどの自然の情景を卓越したロクロ成形による繊細なロクロ目で表現し、青白磁釉で焼き上げた爽やかな情緒豊かな秀作である。
赤松 絵里【人形】
自由という平和な世界に風の翼に乗って飛んで行って欲しい、という願いを込めて制作したと作者の作品解説にある。現在の世界の状況を憂慮した作者は、優雅な動きとグラデーション色調の人形作品で表現した。 動的で堂々とした優美な人形作品は、もっと大きな造形作品となっても遜色のない作品と思われる。
池永 久美子【染織】
綴れ織の作品として単彩に静かに咲き誇る百合の花を作者自身の生活の特別な変化を加味して花の持つ美と自己の心の変動と想いを精一杯の想いでもって制作した一頁である。光と影、そして奇を衒うことなく表現したい気持ちを百合の花の静かな力強さを制約された織の魅力を限りなく創作の世界に溶け込ませた秀作である。
太田 いくみ【染織】
型染めで墨のトーンと布地の白と胡粉の白を基調に構成している。墨色のトーンで黒と白の対比をうまく使い、物語があるように見る人に訴えかけている。生きている者同士、皆で仲良く楽しく生きていたいという作者の願いを大胆且つ緻密な画面構成で作者独特の世界感を演出し表現している。
大村 弘美【陶磁】
力強く、またふくよかに波打つ曲面が環全体にリズミカルに重なり、重厚で存在感のある独創的な作品となっている。また、シャモット入りの土の肌合いや焼成により青味を帯びた釉薬の黒の色調が、作品に更なる深みを加えて、陶による独自の小宇宙を完結させている。
風間 美代子【染織】
待ち遠しい春、雪解け後の木々の芽吹き始めたころの安らぎを感じる自宅庭を情景描写し、安らぎを感じる作品となった。刺繍の表現の模索の中、アクリルの透明感の力も借りて立体表現の試みが評価された秀作です。
近藤 なを【陶磁】
色彩豊かでとてもインパクトのある陶芸作品である。人は出逢った瞬間何か引きあう力が働き、まるで縁や運命のように感じる。それは心象風景として、記憶の中に時と共に豊かなボリュームと、二つの絡み合う形態が見事に表現されている。
品川 未知子【刺繍】
作者は、長い年月を経て確立されたれた日本刺繍の技術と、オリジナルの刺繍技法を駆使して制作を続けている。今回の作品は一万年以上に及ぶ平和な縄文時代を思い、火焔土器とミス馬高土器をモチーフにして表現した。翠の地色に力強い火焔土器の形がとても印象的な秀作である。
古根 香【染織】
作者はゆらゆらと水の流れに身を任せゆったりうごめくクラゲ。時の流れを自由に楽しむ遊び心の中にも明るい光を目指し突き進む強い意志を感じる、友禅の確かな技術を駆使した秀作です。
上前 功夫【硝子】
時とともに過ぎ去った工業製品(テレビ)の硝子を使い新たに命を吹き込む、人々の視線を、時を越え作者の想いが上弦の月の形象と重ね合わせ上手く作品に溶け込ませ昇華させた秀作である。
小口 隆史【複合素材】
複数の素材を駆使して大胆な朱色を用い、世の中が明るく平穏な時の流れを取り戻し未来への夢と希望を作品の中に表現している。従来の工芸にはない材料を使って構成し、これからの新しい工芸素材を提案する原点となる秀作である。
佐藤 格【木】
一本の木から削り出すのではなく、複数のパーツを組み合わせて作ることにより、より自由な造形表現に挑戦している。蛹から羽化する蝶の力む瞬間を捉え、自然界の厳しさと柔軟さを加えて表現し、柔らかな形体ながらも力強く新たに外界へ出る困難を乗り越える姿を、みごとに形態として表現した作品である。
高橋 由美【染織】
緻密に計算された色彩と図案の構成が、鑑賞者の心に爽やかな情景を想起させる作品となった。畝織うねおりと裂布が織り成すグラデーションで、移り変わる春の夕暮れの空や桜を美しく表現した秀作である。
辻 広子【陶磁】
陶土の質感と特性を生かして、風のうねりを力強く表現している。果てしなく続く大地に吹き渡る風の音が聞こえてくるようで、表情豊かな力作である。
中島 京子【染織】
自宅周辺で採取された草木で染められた糸を使って制作されたこの作品は、「失われた時間」と「移りゆく時間」のふたつの時間が表現されている。作者の込めた想いが、力強い構成力と確かな技術力によって伝わる秀作である。
野尻 孝【陶磁】
破壊と創造をめぐる都市空間の夢物語りを、天空に向かって立ち上がる幾層もの壁の重なりを効果的に用いながら、現代という時代の息吹きを土の荒々しい質感と釉薬にて力強く表現した秀作である。
本間 浩一【竹籐】
根曲り竹を骨組にした上に、メンヤ竹でやたら編みをして造形している。竹の素材を生かした柔らかな曲線を創り出し鳥が羽ばたく瞬間を巧妙に表現し、躍動感ある秀作である。
三谷 恵子【フェルト】
ひとつの生命体の芽吹きに神秘的なエネルギーを感じる作品で、フェルトの持つあたたかみの中に自然の永遠のサイクルである芽吹きをしようとする呼吸や強い意志を感じる。色彩を抑え、伸びた芽の先端の黄緑をよりフレッシュに見せて効果的である。
山口 好子【パッチワーク】
春の早朝に陽光がかけ上がる瞬間をイメージした、パッチワークキルトの作品である。画面下方からの暁色が徐々に変化して、上方のスカイブルーになる様を、奥行と広がりのある空間表現をして、さわやかな作品となった。
奥田 啓斗【硝子】
平らな棚板状のものの上にツブ状のガラスを蒔いて虫食い状の板ガラス(タックヒュージング技法)で作ったものを3枚作り、それを重ねて焼いてガラスの重みで形成する(スランピング技法)で作り組み合わせた作品である。小生物の舞う流れを追求し、作者なりの自然美を表現した力作である。
細田 久美子【パッチワーク】
作者はコロナ禍で制限のある日常の中、ワールドカップを観て感動し今回の制作に臨んだ。非常にパワフルなエネルギーに溢れた造形力であり、全面に細かなミシンキルティングが施されて、力のこもった躍動感に満ちた作品になっている。
三浦 友紀子【染織】
青森の津軽こぎん刺しの伝統模様3種をモチーフの中に効果的に用い、背景の黒を生かしながら動きと迫力のある表現を目指した作品である。巨像に遭遇した瞬間の静寂、互いの鼓動を意識させる一瞬の情景が浮かんでくる。
李 沫林【金属】
全身プレートアーマーを覆う人と国の守護神人形である。頭部のアーマーパーツは可動式に設計されており、頭部の後ろにある調整棒を回すと顔が見えて指も可動式となっている。小型ながら、現代の息吹きをたたえた若々しい秀作である。