TOP > 展覧会情報 > 第62回 日本現代工芸展 授賞作品・授賞理由
曽根 洋司【陶磁】
板状に成形された土は、少しずつ厚みを変えながら実にリズミカルに表現されている。手捻成形で櫛目を施し、薄い緑と黒の釉薬を掛け分け、一部には指頭画のような施釉方法が用いられている。
朝方の強い雨の音と遠くからの雷音は、作者を眠らせてはくれない。
光明を見出そうとする作者の思いが伝わり優れた作品となっている。
佐藤 好昭【人形】
サルタヒコは日本神話・古事記の
天孫
降臨
この作品はテラコッタにて、サルタヒコのゆったりとした堂々たる姿を表現している。
葛井 保秀【金属】
アルミの鋳造による大作である。大きな立方体の外側にはアルミの鋳肌を残し、中には磨き上げヘアラインを施し、そこに輝きのある形状を入れ込んでいる。特徴ある作品構成で、アルミを用いて生き生きと風とたわむれているかのような造形することの楽しさ・喜びが見て取れる。これから始まる作者の新しい物語りを感じさせる秀逸な作品である。
川口 満【漆】
木胎の上に麻布を貼り、アルミ板で構成した表面を漆の変わり塗りで表現する。人間は記憶の積み重ねで生き続けていく物であり、その一瞬の時の記憶をさまざまな漆の表情で表している。薄手の立体が立ち上がり、表面と裏面には全く違う世界観が表されており、漆芸の作品として今までに無い造形としての評価は特に高い。
村田 真樹【陶磁】
二つの物体が組合わさるように造形されている。
土と云う素材の持つ温かさと存在感を充分に活かし、共に生きると云うイメージを脳裡に深く思考させ、象徴的な作品へと昇華させている。作者がこれまで希求してきた造形からさらに一皮むけた優作である。
神
天から水が流れ落ちる様を表現した作品という。岩は木板をバーナーで焼き、水は溶かした
錫
上前 功夫【硝子】
「天の海に 雲の波立ち 月の船 星の林に 漕ぎ隠る見ゆ」(柿本人麻呂)。これは本作の発想源となった和歌である。上前は、テレビの一部であったガラスを再利用し、鋳造技法によって制作する。かつて未知への扉であった製品の廃材は、鋭利な三日月となり、仄暗い月夜の靄となって、先人たちが見知らぬ世界に思いを馳せた光景を想起させる。
大畑 桃子【陶磁】
天地四方の現象、特に動き流れなどの様子を想像し、ブルー、紺色を中心とした色土ピースを用いて象嵌の技法で表現をしている。マット系の質感ある釉を調合し色あせた色感で全体を覆い、形に合うような流れを表現し、その中の間を考察し乍ら一つ一つのピースを配して作品にふくらみをもたせている。深く蒼い宙への憧れを想起させる佳作である。
栗本 美和【人形】
繊細だがしっかり作りこまれた手指。それを見つめる目線の先が、はっきり見て取れ高い技術力を感じる。桐塑で形を作り、胡粉で仕上げ、衣には布を木目込んでいる。
青く晴れた丘に風を受けて立つ若者は、明日も軽やかに歩いて行くのだろう。
作者の感性に包まれた爽やかで伸びやかな秀作である。
小谷内 和央【陶磁】
2種類の青釉(トルコブルー)を施した造形作品である。作者は石川県の能登半島の和倉温泉と輪島市の近隣の地で陶芸に励むが、この度の能登半島地震で大きな被害を受けた中で制作を続けての受賞となった。題名にはいつも以上に春を待ちわびた気持が込められているのではないかと思われる。
高井 晴美【陶磁】
日本海の荒海の美しさと力強さに日夜接しながら制作を続ける作者の意気込みが、見事に集約された感を覚える力作である。精神性を深海の景まで進める力強さは想像以上のものがある。創作性をより重んじることで、陶の持つ力の限りを次の作品の課題としてより一層飛躍していくことに期待したい。
髙橋 本榮【木】
現在を生かされている命。今を生きている喜びに感謝しつつ大自然に学び、自然と人間が共生し尊重する世界になることを願う思いを、新しい自由な造形への挑戦というかたちで表現している。栓の大木を渾身の力で
彫
田中 かのこ【革】
革を素材に、日常の窓辺に見える風景の中、猫達が何かに見とれている姿を題材に、作者が創り出した独自の技で制作されている。色彩は素材本来の風合いをいかした茶系でまとめられており、逆にへこませたレリーフ状で猫達の戯れるしぐさを的確に表しており、心和む風情が伝わり鑑賞者を楽しませる佳作である。
盛 澄子【金属】
銅板を彫金レリーフした作品で、何かにときめく衝動とその心情を表現した秀作である。彫金技法で丁寧に造形し、銀メッキをした後に素地の銅を表出し、表現に巾をもたせている。アクリル板の上に彫金レリーフを構成しているところも実に効果的である。
久保 芳美【紙】
和紙による造形作品。形状の維持、気候環境の変化による耐久性の点において立体としての成形が敬遠されてきた素材を、自己の強い造形意欲を頼りに昇華させた意欲作である。震災の地輪島の千枚田での灯火に込められた人々の願いを、この白い和紙の輪は清らかに静かに内包し、見る者の心の深奥に語りかける。
伊藤 邦枝【染織】
2015年初入選以来、桜をテーマに制作している。水辺に咲く満開の桜と風に散った花びらが川面に浮く様を表現している。技法は「裂織」布を裂き緯糸として織る。上部の桜と下部の川面に浮く花びらのボリュームの対比が心地良い。又、満開の桜がノッティングで織られている為に陰影が出来、奥行きも感じられる心地良い作品である。
川羽田 匠登【金属】
アルミニウムを、ヘラ絞りといった技法で制作した装身具です。左が男性、右が女性用と想定されています。人と対面する緊張の場面、色付けされた数珠玉の部分を、お互いに交換し合う事で色が変わり、そこで物理的な対話が成立した証とするコミュニケーションツールでもある。現代のコミュニケーションを、改めて考えさせる作品となっています。
榊原 幸代【染織】
社会が動き、頭の中も変化する中、独特な世界を持つ作者がぐるぐる巡る思考回路の中で戸惑う心と、ぶれない心が交差する様子を一気に、幾可的な形を組合せ図式化して制作。作者の感情がエネルギーとなって溢れだす様子が、作品に込められている。技法は、ローケツ染で、作者の表現したい構成を色重ね、半立体で個性的な作品である。
杉尾 緑【染織】
裂き織り あじろ織 創作織などパターンの違いを生かして立体的な作品に仕上げている。テーマはあらゆる生命体は、大宇宙や自然の恵みを糧として成長を求め飛び続ける。そのような命の輝きや喜びのエネルギーの共鳴し合う世界が表現されている。染織の技法での立体的で存在感のある作品が高く評価された。
田村 美恵子【陶磁】
手を組んだような空間と柔らかい曲面を手捻りで作陶した。赤味の強い常滑土に、呉須を使った太さの違う青い線が自由に走り、赤と青の対比が美しい。作品の心の動きがよく出たやさしい作品である。
鳥井 明子【パッチワーク】
徳島県日和佐海岸のさざ波の青い陰影と、波打ち際に弾ける白波の様子を表現している。水平線の連続構成によって、何処までも果てしなく続く海原が、無限の時を紡ぐ自然の威厳さを、私たちに教示してくれる。熟練されたパッチワークの技術と、巧みに鏤められた刺繍を融合した意欲作である。
野田 怜眞【漆】
梨地で胸・腹・脚を、黒漆に銀粉の量を調整し顔・翅等を巧みな漆芸技法で上手くまとめている。構造パーツの造りも美しく、技量が高い秀作である。絶滅危惧種のゲンゴロウが力強く潜水する姿に、自らも手掛ける漆芸の減少を憂う思いを重ねた発想にも深く感じ入った。
廣岡 秀樹【陶磁】
未来へと向かう上昇や希望のイメージを造形した作品。積み重ね伸びやかな形態を穴蜜無焼〆により表現し、独特の色彩と土味じを見せる。信楽白系陶土をブロック状に積み上げたフォルムは力強く、しなやかに未来へと伸びゆく形を対比的に表した。作者の豊かな造形力と構成力を感じさせる優作。
船津 信子【人形】
作者が幼い頃に青白く輝く月を見て思いを馳せたことを追想し制作された作品です。種別は人形での出品ではあるが、京都オパールを使用した研ぎ出し蒔絵技法など漆芸作品としても見応えがある稀な作品です。伸ばした手の先にあるものを、鑑賞する側に想像させるフォルム自体の楽しさも合わせ持つ秀作です。
横山 幸希【刺繍】
国指定伝統的工芸品であり、金沢の希少伝統工芸の「加賀繍」の技法を用いて制作された本作は、これまでの伝統的な模様ではなく、作者が無意識化で針と糸を踊らせた抽象的な模様と、三角形や四角形の立体を直線的に配置し、スタイリッシュにまとめた作品は、加賀繍の新しい可能性を感じる力作である。
赤岡 由理【染織】
秋から冬へと移りゆく草花をローケツ染の技法を巧みに使いこなし、夕暮れを表現している。秋深くなり冬を迎える中で、次への生命がつないでいくエネルギーと美しさを感じさせる作品である。ローケツ染の技法では、染料で染めてローを置き何回も繰返し重ねる事により立体的な表現となっている。また細部に筒描きで金を使い全体をまとめた佳作である。
伊藤 宏美【複合素材】
ミクストメディアと言う新しいジャンルの作品で和紙やオーガンジー、チュール、水引きといった複合素材を巧みに使った作品である。作者の意図する日々の中での自然界の力強さや風の音や光を感じさせる作品で今後の活躍が多いに期待される。
鈴木 明子【漆】
作者が仏像を参拝する時、その光背から光の風や炎のような強烈な印象を受けるという。そのイメージをシンプルな立体抽象造形にしている。艶上げの黒漆と艶消しの朱漆の組み合わせが明快で好感が持てる。作者の巧みなイメージの抽象表現化による次作にも期待したい。
銅谷 祐子【金属】
金属の作品である。馬の躍動感、たてがみがなびく様子、吹き抜ける風。鉄素材の力強さを用い、単純な板状の形態の重なりで、それを見事に表現している。また表面処理は、現代社会のインフラを支えている鉄の防腐処理、溶融亜鉛メッキを施こし仕上げている。馬の生命力に満ちた、迫力のある金属造形作品となっている。
半下石 礼子【七宝】
他人を尊重する心、思いやりの心に思いを馳せた作品です。画面の上方にある赤い七宝を心の象徴とし、ステンレス板で左右に分けた空間を、自身の心と他人の心に置き換え、互いの心の変化を、円形の七宝、磨かれたステンレス板、線材を使って遠近感を感じさせながら、対する人との内面的、物理的な距離感を、清々しく表現した作品となっています。