TOP > 展覧会情報 > 第58回日本現代工芸展 授賞作品・授賞理由
受賞作は、作者がシルクロードに点在するオアシス都市を旅した時の印象を、自身の心象風景として表現した作品である。磁器の作品は立体がほとんどであるが、より大きな画面を求めて壁面作品にチャレンジし、九谷焼に古くから伝わる技術を継承、駆使しながらあくまでも、新しい色絵の世界を追求している。
水をテーマに陶土による成形を試みた優作である。万物の命の源である水をたおやかな曲線造形で表現し、白濁した釉の流れはそのまま大自然へと調和する。形と色調がつくり出す優しいラインは体内に充分な水を内包した女性トルソーを想起させ、確かな創造力が窺える。
欅を組み、彫りだした形態を黒拭き漆で仕上げている。作者は宇宙の存在としての地球とその大気の流れを意識し、エネルギーを感じて造形したという。日々存在することがあたりまえのように思う事象に想いを巡らせ、創造することの意味を語りかける秀作である。
漆の基本である木芯乾漆を駆使して、現在から、過去、そして未来に向けて、その一瞬一瞬が響き合い繋がり合っていくイメージを、三角形を基本として、その三角形を少しずつ変形して組み合わせている。面の取り方は微妙に変化し、群青色の色漆に、螺鈿と錫金具を施し、見る角度によって漆独特の美しさが表現されている。非常に斬新なフォルムで漆の新しい方向性を感じる作品である。
墨染めの太い撚り糸に赤を織り交ぜ、中央の糸の弛みには赤と黒糸を効果的に配し、織物のもつ特性を充分に生かしながら人物の横顔を特徴的に表現している。まるで知人であるモデルの性格までも映しとるかのようだ。
長年の研鑽が見てとれる労作である。
土板を自在に操り風の流れを無理なく表現している。茜色は、ともすれば暑くまた重い感覚を与えるものだが、まるで無作為に組み合わせたかのような構成がそのような意識を拭い去っている。作者の技量に裏打ちされた造形は茜風に昇華して鮮やかだ。
天平時代の漆胡瓶を連想するフォルムを、現代に置換えて新たなチャレンジを試みている。
眉の中で生命が育ち、生まれるさまを表現している。作品の中央に位置する蓋物は、大切なものを入れたり、想いを入れたりし、そこから噴き出すエネルギーが、やがて繭の花として咲き出すイメージを作り上げている。網状に配した形状と、漆の持つ特色をよく生かした作品である。
風が吹き、水が流れる壮大な自然情景をモチーフとし、青白磁の器に落とし込んだ作品である。作者の得意とする高度なロクロ技法で成形し、ロクロ目と変形した形の中に作者の意図する想いを試み、単純な形体を明確に表現された秀作である。
里山の穏やかな風景の中、大樹にふりそそぐ柔らかな光り輝く情景と画面手前に、大胆に配置した大樹の影の形が、刻々と移りゆく時の情景を写し出して明快な画面を創出している。
蝋ケチ染の技法で深い色合いを精緻に重ね、確かな表現力でテーマを明確に捉える事に成功している力強い作品である。
作者が暮らす冬の北陸の景色を陶器で表現している。
器の上部の大小の多くの穴と金釉は、波しぶきがくだけ散り、太陽にあたって光り輝く様を、下部の白化粧は雪と波の華を感じさせ、寒く厳しい冬の風土を表現している様に思う。しかし、作品は暖かく人間味を感じる作品である。
突然の自然災害や困難に立ち向かい様々な苦悩を感じながらも新しい未来へと夢を持ち、前に進もうとする勇気に満ちあふれた人々の心を陶磁という素材を持ってメッセージした作品である。この作品の魅力は大胆な造形と加色方法にてビックウェーブにもまけない力を感じさせる夢あふれる会心作である。
夕暮れのコンビナートをモチーフにして、象徴的な画面構成と思い切りの良い色彩を用いて大胆に表現されている。
幾何学的な情景がノスタルジックな懐かしさとともに、作者が幾多の旅先で出合ったであろう情景や思いが伝わってきます。
蝋ケチ染の特徴を最大限に生かし、印象的な形と色で大胆に染め上げている。
回遊する群れなす魚と重なる波を、繊細な友禅の線で描き生命と自然の力強さを表現している。画面からはみださんとする生き生きとした魚の群れは見る者に生命の喜びを感じさせる優作である。
そびえ立つ力強い山々、永遠に続く広大な河、大空に浮かぶ白い雲、作者は自然の中に雄大な力や無限の可能性を感じ、日々の作陶に励んでいるアトリエの窓から眺めるこの雄大情景を、自分の得意とする手びねり技法にて成形、作品の上部に向かい、やわらかで、おおらかなうねりを表現、彩土にて大胆に加飾された秀作である。
貴族風に服装を身につけた猫によって「猫をかぶる」を表わすコンセプトもおもしろい。鍛金技法も堅実で有り、台座まで神経を使い心地よい。過剰な程、装飾が施され、内面と外面の違いを表現し、現代の世相を反映した若者らしい優作である。
直線を組み立てた力強く奇抜な形状を、磁器で焼き上げている。その上で、菊、ザクロ、葡萄などアジアの香りを唐草模様にデザインし、ユーモラスで大胆な駱駝たちに纏わせた。おしゃべりに暇もない様子が微笑ましい。黒と金の二色だけでまとめ上げた秀作である。
作品の三つの構成要素は、形(フォルム)、模様、色彩でフレームを使用する平面作品は、オリジナルの模様が誇張される。
竹という素材を、竹炭という形に置き換えシンプルな構成を用い、心の葛藤(絶望から希望へ)と物語を描くように下部から上部へと模様を施している。真っ直ぐな竹炭も楕円にリンクして希望(自由)へと展開している様子が、見る人に暖かな開放感を与え、心のイメージを上手にまとめられた秀作である。
銅を素材として鍛金技法と溶接技法で制作されている。動かない鳥として有名な、目が鋭く大きな口ばしが特徴であるハシビロコウのキモ可愛い雰囲気が良く表現されている。力強くも存在感のある作品で、金属でありながらも暖かさも感じ、作者の鳥に対する愛情が感じられる優作である。
大地の恵みを受け、蕾のふくらみから咲いて散るまでを太い織糸を巧みに使いボリュームのある立体的な作品に仕上げている。赤を基調とした、大胆な構図が成功している優作である。
自然の営みを優しく見つめる作者の想いが伝わる作品である。和紙を使って、森の自然の育みを表し、しなやかな線によって立体的な画面をつくっている。白とシルバーで構成された技法が効果的に表現され、力強い生命感を感じさせ、命の尊さを表現している。
春の訪れは生命の芽吹きの時、風は光とともに美しいメロディも運んでくる。喜びと期待に胸が弾み、心の譜面に音符が転がるのをイメージして制作している。花の模様として表現し木目込みの技術で古布を配した細やかな彫は見事である。足の立ち上がりがしっかりしていて全体に美しく伸びやかな躍動感が爽やかに伝わってくる。桐塑で形作り、仕上げに胡粉、布、金泥を使用している。
アトリエから眺める自然の情景が色彩を豊かに映されて、光のコントラストを糸の太さ等、チュール、ほかの素材を織り込み立体感を強調し、刻々と開けゆく空の色等を力強い創作のエネルギーを感じる。長い間、このテーマを追い求めた成果が結実した作品である。
遥かなる深海には、まだその存在が明らかではない未知なる生物が潜んでいるかもしれない。そんな素朴な思いが大胆でおおらかなフォルムとなって表出されている。
日本古来からの建造物の装飾を担ってきた「組子」技法で、現代感覚にあふれた独創的な表現で、古きものから新たなる提案として、創作意図が明確に伝わってくる精緻にして大胆な意欲作である。
厳冬のピィーンと張りつめた、凍えるような冷たい空気をブルーのコバルトの青で表現している。形は心穏やかな曲線の造形で山というより森をイメージさせられる。そこに生きるカラマツの木々が白い線でパターン化されている。松の木に降りてきた霧氷であろう。
形と模様が調和した秀作である。
漆黒の夜空を包み込むように、曲線を重ね渦を巻くように表現した中に、星をイメージした形状が変化を持たせた花編みの美しさが際立つ立体の秀作である。
夜空に寄せる想いを、籐の持つしなやかさを駆使し生み出された造形と、夜空に輝く星の表情が微妙に変わっていくことで、広がりを感じさせる印象深い作品である。
これから訪れる春を待ちわびる地中の根っ子達を思い造形化された作品である。
一本一本の個性あふれた表情から楽しさを感じる。根っ子達はどんな会話をしているのであろうか、地に耳を寄せ聞いてみたくなる。
新人賞に相応しいフレッシュな作品である。
赤と黒の魂が激しくせめぎ合い何かを突破しようとする力強さと、若さを感じる。
変わり漆と蝋色塗りで変化をつけ、一部に螺鈿を施したのも一層作品を引きたてた力作である。
作者の狙いの中に宗教的な巨大建造物を築いたような”という解説分の一文があるが、この作品が「築」という題名により、これから未来に向かって祈りにも似た想いが込められ、建造物的表現が力強く伝わってくる。更に、素材の磁石土は作者の地元、有田ではロクロや鋳込みの技法に多く用いられるが、表現と技法を駆使して制作した清々しい若者らしい秀作である。
古いガラスのゆがみを枡目模様で構成した作品。波打つ様な組織とやわらかな布を使った裂織を効果的に使い、ガラスの持つ微妙な光の変心を巧みに表現。印象に残る大胆な作品である。
フェルトの持つ質感と彩色を最大限に生かした作品。フェルトを作成し、細くテープ状に巻き、鮮やかに色の変化を見せる。色の積層された無数の円に人々の生命や宇宙などを、観るものには印象的にイメージさせる作品である。